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バランスト・スコアカード(成功に導く5原則)

キャプラン氏とノートン氏が提唱しているバランスト・スコアカードは、戦略立案から実行までをサポートするフレームワークです。このフレームワークは、創業者のクリエイティビティーや強烈なリーダーシップだけでは、企業を推進することが難しくなってきた中小企業・中堅企業にとっても有用なアイデアを示していると思います。ここでは、バランスト・スコアカードを導入して成功している企業に共通していると言われる5つの原則について考えてみたいと思います。

原則1: 戦略を現場の言葉に置き換える
従来の財務測定に用いられる指標は、現金、売掛金、棚卸資産等、営業や製造の現場でオペレーションをする担当者が肌感覚で理解することが難しい場合があります。そのため、現場への戦略の浸透を促すために、現場が理解しやすい言葉に置き換えることが必要となってきます。例えば、既存顧客のリピート率、新規顧客の獲得件数、不良品発生率等の言葉を使うことが必要となってくるかもしれません。加えて、これらの現場目標が全社レベルでみたときに収益性の改善という財務数値に繋がってくことが必要となります。

原則2: 組織全体を戦略に向けて方向づける
通常、組織が一定の規模以上になってくると、部分最適が蔓延り、会社全体として向かうべき方向に舵を切ることが難しくなります。例えば、職能別組織を採用している組織では、研究開発、製造部、営業部等の各部門が部門最適をはかり、部門間の連携や全社横断の課題への対応が難しくなります。他方、バランスト・スコアカードを用いることによって、戦略テーマの優先順位が明確になります。そのことによって、全部門が共通して現在注力すべき戦略テーマに向けて各部の目標を設定することで、組織全体で共通の戦略に向けて一丸となって取り組むことが可能となります。また、各部門の目標設定やそれに向けた実行体制を担保することで部門間の連携をより高いレベルで実現することが期待できます。

原則3: 戦略を全社員の日々の業務に落とし込む
立案された戦略は、社員一人一人の業務によって支えられています。つまり、社員一人一人が戦略に適合した活動を行っていくことが必要となります。バランスト・スコアカード導入により成功している企業は、3つの観点から全社員への落とし込みを実現しているようです。一つ目は、教育です。戦略を実行するために新たに見つけるべきスキルがあるならば、それを習得できるように教育を提供していく必要があります。二つ目は、戦略目標のブレークダウンです。全社で立案された戦略目標を部門ごとに分解し、更にチームや個人にまで目標を展開することにより、個人の活動目標が全社戦略に適合することを目指します。三つ目は、成果連動型報酬制度の設計です。簡単に言うと、戦略目標を達成している人が報われるように報酬制度を設計することです。このときに、チームワークの醸成を考慮すると、個人ベースではなく、チームベースで報酬制度を作った方が良くワークしやすいとの事実があります。

原則4: 戦略を継続的なプロセスにする
立案された戦略を継続的な取り組みとなるようにするためには、従来の月次、四半期で予実の確認をしていくだけでは不十分で、継続的なプロセスとするためには、3つの課題があるとしています。一つ目は、予算策定のプロセスに戦略を折り込むことです。例えば、予算における投資項目がスコアカードと連動するように取捨選択することや短期と長期の予算を区分する(戦略予算と業務予算)ことなどが必要となってきます。二つ目は、戦略を検討することを目的とした経営会議を月次、四半期ごとに開くことです。このような会議を開くことで、広範囲のマネージャーが能動的に戦略実行に関わるようになっていき、全社的な取り組みとして推進してくことができるようになります。三つ目は、立案した戦略を理解してよりよく実行していくためのプロセスを整備することです。例えば、各部の目標が全社の戦略目標にどの程度連動しているかについて、フィードバックを確認することにより、更に効果的な打ち手を考案することが可能になるかもしれません。

原則5: エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す
最後の原則は、エグゼクティブ(中小企業おいては経営者が中心)が、バランスト・スコアカードの導入に対してエネルギッシュに取り組むことが必要となります。バランスト・スコアカードの導入は、単に目標設定のプロジェクトではなく、組織の末端の従業員の意識も変えていく変革プロジェクトであるという意識を持って積極的に取り組んでいくことが求められます。

以上、キャプラン氏とノートン氏が提唱するバランスト・スコカカード導入を成功に導くための5つの原則について考えてみました。要約すると、経営者を始めとしたトップマネジメントが必要性を強く認識したうえで、組織の末端の従業員を含めて全社員の活動が全社戦略に適合し、且つ継続的な取り組みとなるように導くことと言えるのではないでしょうか。

[参考文献]
ロバート・S・キャプラン、デビッド・P・ノートン(著), 櫻井 通晴(監訳). (2001). 戦略バランスト・スコアカード. 東洋経済.